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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)105号 判決 1980年6月25日

茨城県鹿島郡波崎町七六九〇番地の二

原告

株式会社 藤屋興業

右代表者代表取締役

下河邊庄司

右訴訟代理人弁護士

伊東眞

茨城県行方郡潮来町大字延方字ミカト前甲一三五八番地

被告

潮来税務署長

右指定代理人

金沢正公

古与喜男

柴一成

神林輝夫

主文

1  被告が昭和四八年六月三〇日付でした原告の昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額一五、五八〇、四七一円を超える部分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四八年六月三〇日付でした原告の昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額一五、五八〇、四七一円、税額五、二四三、〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  被告が昭和四八年六月三〇日付でした原告の昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日までの事業年度の法人税についての重加算税賦課決定処分並びに昭和四八年一〇月二七日付でした法人税の再更正処分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

3  被告が昭和四八年一〇月二七日付でした原告の昭和四六年六月分、一二月分、昭和四七年一月分及び五月分についての源泉所得税納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は不動産の販売等を目的とする株式会社であるが、昭和四三年一〇月一日から昭和四四年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和四四年度」という。)及び昭和四五年一〇月一日から昭和四六年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和四六年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告ないし修正申告、これらに対し被告のした更正処分ないし再更正処分及び重加算税賦課決定処分、これらに対し原告のした異議申立及び審査請求、これに対する被告の決定及び国税不服審判所長の審査裁決並びに被告のした昭和四六年六月分、一二月分、昭和四七年一月分、五月分の源泉所得税納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分(以上「本件課税処分」という。)の経緯はそれぞれ次のとおりである。

(昭和四四年度)

<省略>

(昭和四六年度)

<省略>

(納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分)

<省略>

2  しかし、被告がした本件課税処分(但し、昭和四四年度の更正処分については、後記被告の主張1(一)の(1)<二>及び(2)の額を除く、所得金額一五、五八〇、四七一円を超える部分)は違法であるからその取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1は認め、2は争う。

三  被告の主張

被告がした本件課税処分の内容及び認定根拠は次のとおりである。

(法人税及び重加算税)

1 昭和四四年度

<省略>

但し、更正所得金額は裁決後の金額である(昭和四六年度も同じ。)。

(一) 加算分の認定根拠

(1) 受取利息計上漏れ 合計一七八、八二〇円

<一> 原告が三菱銀行銚子支店に設定していた定期預金(口座番号六一〇七三八、無記名扱い、額面三、五〇〇、〇〇〇円)の利息収入一六四、〇七二円(昭和四四年九月二九日支払)である。

<二> 原告が右支店に設定していた定期預金(口座番号六一六六四五、無記名扱い、額面二五〇、〇〇〇円)の利息収入一四、七四八円(昭和四四年九月三〇日支払)である。

(2) 別途収入計上漏れ 二〇、〇〇〇円

原告は修正申告において収入を計上する際、その収入金額を期中の普通預金等の増減等により算出したが、銚子信用金庫に設定していた普通預金(口座番号七三七二、山本昇名義)の昭和四四年九月期末の残高が一、八五四、九三〇円であるのにこれを一、八三四、九三〇円と誤つて計上したための差額二〇、〇〇〇円である。

(二) 重加算税の認定根拠

原告は昭和四四年度中に前項の(1)及び(2)の収入を得ていながらこれらを帳簿に計上しないで仮装隠ぺいして確定申告書を提出したものである。なお、(2)の山本昇名義の預金は、昭和四四年度の売上を脱漏して所得を仮装隠ぺいし、これによつて生じた利益によつて設定した仮名預金である。

2 昭和四六年度

<省略>

<省略>

(一) 加算及び減算分の認定根拠

(1) 売上計上漏れ 一、三〇三、〇〇〇円

原告が笹本俊夫から代金一、〇三六、〇〇〇円で取得した茨城県鹿島郡波崎町細田三八六七番、山林四畝二八歩(以下「細田の土地」という。)のうち二二〇平方メートルを昭和四六年六月ころ石谷寿夫に売却した代金一、三〇三、〇〇〇円である。

(2) 受取利息計上漏れ(一)、(二) 合計 二四一、三四五円

<一> 右(一)は前記1(一)(1)<一>の定期預金額面三、六六四、〇七二円(額面三、五〇〇、〇〇〇円に利息一六四、〇七二円が加算されたもの)の利息収入一九七、二九五円である。

<二> 右(二)は原告が常盤相互銀行銚子支店に設定した通知預金(記号番号一四七二二、安藤敏武名義、額面二〇、〇〇〇、〇〇〇円)の利息収入四四、〇五〇円である。

(3) 支払手数料否認 一九、八〇〇、〇〇〇円

<一> 原告は、昭和四五年一一月三〇日茨城県鹿島郡波崎町矢田部十町歩一二五一七番外一五筆の土地二町一畝二二歩(以下「矢田部の土地」という。)を田丸恒夫から代金三九、三三八、〇〇〇円で買入れたが、原告は右取引に関し東信工業株式会社(以下「東信工業」という。)に諸経費及び謝礼金の名目で二四、八〇〇、〇〇〇円を支払つたとして右金額を損金に計上していた。

<二> しかし、原告は東信工業に対し二四、八〇〇、〇〇〇円を支払つたことはない。なお原告は矢田部の土地の仕入代金として昭和四五年一一月三〇日柳川桃太郎から三四、六六〇、三三二円を借り入れ、昭和四六年一月二〇日右柳川に三九、六六〇、三三二円を返済している。

<三> そこで被告は柳川桃太郎からの借入金と同人に対する返済金との差額五、〇〇〇、〇〇〇円についてはこれを簿外の経費として認め、残額一九、八〇〇、〇〇〇円については否認したものである。

(4) 未納事業税の当期認容額 一二、七二〇円

前事業年度の更正処分により増加した所得に対応する事業税は昭和四六年度末においては未納であり次の算式によりこれを損金として認容したものである。

前事業年度の所得 二三六、〇〇〇円 <1>

<1>のうち申告所得 二四、〇〇〇円 <2>

差引所得 二一二、〇〇〇円

認容事業税額

<省略>

(5) たな卸認容

前期(1)の石谷寿夫に対する売上計上漏れ一、三〇三、〇〇〇円に対応する売上原価として次の算式により算出した四六六、四〇〇円を損金として認容したものである。

石谷寿夫に売却した地積の仕入総地積に占める割合

<省略>

たな卸認容

仕入総価額

一〇三六〇〇〇円×〇・四五〇二四六六四〇〇円

(二) 重加算税の認定根拠

(仮装隠ぺいされた所得金額の内訳)

<省略>

(1) 前項(1)の土地売却代金は原告が簿外で仕入れた土地を簿外で売却して売上げを除外し隠ぺいしたものである。

(2) 同(2)<一>の受取利息は原告の簿外預金から生じた利息収入を帳簿に計上しないで隠ぺいしたものである。

(3) 同(2)<二>の受取利息は原告が三菱銀行銚子支店に預金していた安藤敏武名義の普通預金(口座番号一二七三七〇三)から昭和四五年一二月二九日二〇、〇〇〇、〇〇〇円を払出し、常盤相互銀行銚子支店へ通知預金(記号番号一四七二二、安藤敏武名義)したものの利息収入(昭和四六年二月四日払出分四三、〇八二円、同月九日払出分九六八円)であるが、原告は右二〇、〇〇〇、〇〇〇円を東信工業に対する借入金の返済に充てた旨仮装経理し、右利息収入を仮装隠ぺいしたものである。

(4) 原告は矢田部の土地の仕入れに関する経理を次のようにしていた。

<一> 原告は昭和四五年一一月三〇日矢田部の土地の仕入資金として三〇、〇〇〇、〇〇〇円を東信工業から現金で借り入れた旨記帳し、この返済については二〇、〇〇〇、〇〇〇円については原告の三菱銀行銚子支店の普通預金から昭和四五年一二月二九日二〇、〇〇〇、〇〇〇円を払出し、同日現金で返済した旨記帳し、残高一〇、〇〇〇、〇〇〇円については右普通預金から昭和四六年一月二〇日三九、六六〇、三三二円を現金で払出し、同日このうちから残金及び手数料等の名目で二四、八〇〇、〇〇〇円とを東信工業に支払つた旨記帳していた。

<二> しかし、東信工業に対する右手数料等の支払はなく、真実は矢田部の土地の仕入資金として前記のように柳川桃太郎から借り入れたものであるから原告の右経理は仮装経理であり、これにより一九、八〇〇、〇〇〇円の所得を隠ぺいして確定申告書を提出した。

(5) 前項(5)のたな卸認容は同(1)の売上計上漏れの土地売却代金の原価に相当するものであるからこれを減算したものである。

3 源泉所得税及び不納付加算税について

(一) 昭和四六年六月分 一、三〇三、〇〇〇円

原告が石谷寿夫に売却した細田の土地の売却代金であるが、原告はこれを簿外で売上げて受領していたところ、その代金は取締役安藤敏武が個人的に費消した。従つて、右石谷に売却した時点の昭和四六年六月分の安藤敏武に対する賞与と認定すべきである。

(二) 昭和四六年一二月分 一八四、七〇七円

原告は昭和四七年度において、昭和四六年一二月三日原告が三菱銀行銚子支店に預金していた定期預金(無記名扱い)三、八六一、三六七円を払出した際利息として一八四、七〇七円の収入があつたが、この利息収入は取締役安藤寧秋個人の右支店普通預金(口座番号一〇〇〇四五九、安藤寧秋名義)に昭和四六年一二月三日入金されていた。従つて、右利息収入は普通預金に入金された時点である昭和四六年一二月分の安藤寧秋に対する賞与と認定すべきである。

(三) 昭和四七年一月分 八〇〇、〇〇〇円

原告は昭和四七年度において、昭和四七年一月二二日青野陽子に細田の土地の一部を代金八〇〇、〇〇〇円で売却したが、右売却代金は簿外で売上げ受領していたところこれを取締役安藤敏武が個人的に費消した。従つて、右青野に売却した時点の昭和四七年一月分の安藤敏武に対する賞与と認定すべきである。

(四) 昭和四七年五月分 二四三、二八五円

(1) 原告は昭和四七年五月一日三菱銀行銚子支店に設定していた定期預金一〇、〇〇〇、〇〇〇円から発生した利息二四三、二八五円の支払を受け、これを同月四日右支店の原告の安藤敏武名義の公表普通預金(口座番号一二七三七〇三)に入金した。

(2) ところが、原告は右受取利息を収益に計上せずに同月四日手持現金を払出して右公表普通預金へ入金した旨の仮装経理をした。しかし、右利息金の移動は同一支店内の振替取引にすぎないからこれによつて原告に現金支出が生ずる余地はなく、結局右経理により受取利息相当額の手持現金が社外へ流出した。

(3) 原告は同族会社であり経理並びに現金及び預金の管理は専ら安藤敏武が担当していたこと、右の仮装経理は訂正されずに昭和四七年度末に決算されていること、決算諸表の金額は符合していること、右現金支出額に見合う資産が発見されていないこと及び原告代表者等から右現金流出について合理的説明がなされないことなどに照らすと、右利息収入額に見合う現金は取締役安藤敏武が個人的に費消したものと認められる。従つて、右現金が流出した時点である昭和四七年五月分の安藤敏武に対する賞与と認定すべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  昭和四四年度

(一) 被告の主張1(一)(1)<一>のうち被告主張の定期預金が原告に帰属することは否認し、その余の事実及び同1(一)(1)<二>は認める。

(二) 同1(一)(2)は認める。

(三) 同1(二)のうち、1(一)(1)<一>の定期預金が原告に帰属することは否認し、同1(一)(1)<二>及び1(一)(2)の利息等を申告しなかつたことは認めるが、これは単なる計上の過誤ないしは計算の誤りにすぎず、仮装隠ぺいではない。

2  昭和四六年度

(一) 同2(一)(1)のうち細田の土地に関する取引が原告に帰属することは否認するが、その余の事実は認める。

(二) 同2(一)(2)<一>のうち秘告主張の定期預金が原告に帰属することは否認するが、その余の事実は認める。

(三) 同2(一)(2)<二>の利息収入は認める。

(四) 同2(一)(3)のうち<一>は認め、その余は否認する。

(五) 同2(一)(4)は認める。

(六) 同2(一)(5)は否認するが、売上原価の計算過程については争わない。

(七) 同2(二)(1)の取引が原告に帰属することは否認する。

(八) 同2(二)(2)の預金が原告に帰属することは否認する。

(九) 同2二3のうち利息収入を隠ぺいした事実を否認し、その余は認める。

(一〇) 同2(二)(4)<一>は認め、<二>は否認する。

(一一) 同2二(5)(は)否認する。

3  源泉所得税納税告知処分等

(一) 同3(一)及び(三)のうち土地売却代金が原告に帰属することは否認する。

(二) 同3(二)のうち三菱銀行銚子支店の定期預金(無記名扱い、三、八六一、三六七円)が原告に帰属することは否認し、その余は認める。

(三) 同3(四)のうち(1)は認めるが、その余は否認する。

五  原告の反論

1  被告の主張1(一)(1)<一>の三菱銀行銚子支店の定期預金の帰属について

(一) 右預金は安藤寧秋が原告会社設立以前の昭和四〇年一二月六日右支店に設定したものであるからその利息収入が原告に帰属することはない。

(二) 被告は後記六2記載のように原告が昭和四一年一一月一七日から昭和四二年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和四二年度」という。)の法人税の修正申告をした際右預金を原告の簿外預金として申告したことを理由に右預金が原告に譲渡された旨主張するが、右申告の経緯は調査に当つた国税局係官がよく確かめもしないで原告の預金と速断し確認を求めたため錯誤により原告に帰属することを認めたものである。

2  同2(一)(1)の細田の土地の帰属について

細田の土地は安藤寧秋が昭和四〇年ころ個人的に買い入れたもので原告のものではない。このことは右土地の造成費用、分筆登記費用等を右安藤が支払つていることや土地売却代金が安藤寧秋のもとに入金されていることからも明らかである。

3  同2(一)(3)の支払手数料否認について

右の支払手数料は原告が東信工業に矢田部の土地仕入れ及び右土地に鹿島郡波崎町矢田部字押上の土地を合わせて京成電鉄に売却した際の手数料の一部である。

六  被告の再反論

原告の反論1の三菱銀行銚子支店の定期預金の帰属について

1  右定期預金は昭和四二年九月二七日設定されたものであるところ、右設定日は原告の設立日である昭和四一年一一月一七日より後であること、原告の昭和四二、四三年度の修正申告において原告の預金として計上されていることから原告に帰属することは明らかである。

2  仮に右預金が原告の設立日以前に設定されていたとしても、原告は昭和四五年六月二五日に昭和四二ないし四四年度の各事業年度にかかる修正申告をし、その中で右預金を原告の簿外預金として計上していたのであるから昭和四四年度以前において原告に無償譲渡されたことは明らかである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一、二、第二ないし第二四号証を提出

2  証人安藤敏武、安藤寧秋、沼田敏男の各証言を援用

3  乙号各証の成立(但し、第一ないし第六号証、第一〇号証、第一二、一三号証、第一五証の一、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第三三号証、第三九号証の三、第四五ないし第五七号証、第五八号証の三、四については原本の存在を含む。)は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二、一三号証、第一四、一五号証の各一ないし三、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第三五号証、第三六号証の一ないし三、第三七号証、第三八号証の一、二、第三九号証の一ないし三、第四〇号証の一、二、第四一、四二号証、第四三、四四号証の各一、二、第四五ないし第五七号証、第五八号証の一ないし四を提出

2  証人持丸治見の証言を援用

3  甲第一号の一、二、第二ないし第七号証、第一二号証、第一四号証、第一六号証、第一八号証、第二〇、二一号証、第二三号証の成立(但し、第一号証の一、二、第二、三号証、第一四号証、第二一号証については原本の存在を含む。)は認める。第一〇号証の成立は否認する。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  昭和四四年度について

右年度の法人税の確定申告期限が昭和四四年一一月末日であり、同年度の更正処分が右申告期限から三年を経過した後になされたものであることは、右当事者間に争いない事実と法人税法第七四条により明らかである。従つて被告の主張は右更正処分が国税通則法第七〇条第二項第四号を適用して行なわれたものであることを前提とする趣旨であると解されるので、まず右要件の存否について判断する。

(一)  三菱銀行銚子支店に設定されていた口座番号六一〇七三八、無記名扱いの定期預金から昭和四四年度中に一六四、〇七二円の利息収入が生じたこと、同じく右支店に設定されていた口座番号六一六六四五、無記名扱いの定期預金が原告に帰属し、右預金から昭和四四年度中に利息収入一四、七四八円が生じたこと、原告は右各利息収入を昭和四四年度の法人税の申告に際し益金に計上していないこと、原告は右年度の修正申告において収入を計上するに際し、これを期中の普通預金等の増減等により算出したが銚子信用金庫に設定していた普通預金(口座番号七三七二、山本昇名義)の昭和四四年度末の残高が一、八五四、九三〇円であるのにこれを一、八三四、九三〇円と誤つて計上したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  ところで前記通則法第七〇条第二項第四号に規定する「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ」るとは、逋脱の意図をもつてその手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうことをいう(最判昭和四二年一一月八日刑集二一巻九号一一九七頁参照)もので、右の偽計その他の工作を行なうとは帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成等の積極的行為はもとより真実の所得を隠ぺいし、それが課税対象となることを回避するため所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の申告書を税務署長に提出する行為も含まれる(最判昭和四八年三月二〇日刑集二七巻二号一三八頁参照)ものと解される。そこで進んで前記の過少申告が課税対象をことさら回避するためになされたものであるか否かについてみるに、まず前(一)項記載の銚子信用金庫の普通預金(口座番号七三七二)の期末残高の過少計上については、右預金が昭和四四年度の売上を除外し所得を仮装、隠ぺいすることによつて得られた利益をもつてされた預金であることを認めるべき証拠はないし、また、同項記載の事実によれば預金残高計上に際しての数額記載の誤りに基づくものとみられ、ことさらに過少申告したような事実を認めるべき証拠もない。次に三菱銀行銚子支店の二口の定期預金から昭和四四年中に生じた利息収入についてみると、原本の存在と成立に争いない乙第五号証、第三九号証の三、成立に争いない乙第八、九号証、証人安藤敏武の証言によれば右二口の定期預金のうち口座番号六一〇七三八の定期預金は昭和四二年度及び同四三年度の、口座番号六一六六四五の定期預金は同四三年度の各修正申告(いずれも昭和四五年六月二五日になされた。)において原告の資産として計上されていることが推認されるのであるから、この事実によれば原告が昭和四四年度の法人税の申告にあたりことさらに課税対象を回避するために右二口の定期預金から生じた利息収入を計上しなかつたものと推認し得なくもない。しかし、後記2の(二)に認定のように原告が右修正申告において二口の定期預金を計上するに至つたのは原告が被告から税務調査を受けた際、簿外の所得に対応する資産を追求されたため原告の代表取締役らが協議した結果、昭和四四年度の法定申告期限(昭和四四年一一月三〇日)後の昭和四五年六月二五日に提出した修正申告書において原告の資産として計上するに至つたものであること、口座番号六一〇七三八の定期預金は原告会社が設立される以前に安藤寧秋が無記名扱い定期預金として設定したものであること、口座番号六一六六四五の定期預金は昭和四三年六月二六日無記名扱い定期預金として設定され、その後昭和四五年八月二〇日安藤寧秋名義に変更されていることが認められ、これらの事実に照らすと口座番号六一六六四五の定期預金についても元来は右安藤が個人として設定した可能性を否定し得ないところ、これに前記の修正申告書における計上の経緯を勘案すると、右二口の定期預金が昭和四五年六月二五日提出の修正申告書に原告の資産として計上されていたことの一事をもつてただちにそれが昭和四四年度中に原告に帰属していたものと断定することはむずかしいし、また、他に右二口の定期預金の利息収入を原告が仮装隠ぺいしたことを認めるに足りる証拠もない。

(三)  そうすると被告が昭和四四年度についてした更正処分は、国税通則法第七〇条に違反するから違法であつて原告の請求している限度で取消しを免れず、また、重加算税賦課決定処分も違法として取消しを免れない。

2  昭和四六年度について

(一)  売上げ計上漏れ 一、三〇三、〇〇〇円

被告の主張2(一)(1)の事実のうち、被告主張の土地についての取引が原告に帰属するものであることを除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いない乙第一〇号証、第一三号証、第三三号証、甲第一四号証、成立に争いない乙第一一号証の二、第三八号証の二及び甲第六、七号証、証人安藤寧秋及び同安藤敏武の各証言(但し、いずれも後記採用しない部分を除く。)によれば、原告は前記当事者間に争いない事実のとおり、昭和四五年一月三〇日笠本俊夫から細田の土地を代金一、〇三六、〇〇〇円で買い受け、右土地の一部である山林二二〇平方メートルを昭和四六年六月二五日石谷寿夫に代金一、三〇三、〇〇〇円で売り渡したこと、同人に対する右売買は原告に備付けの取引台帳にも明記されているところであつて、右取引にかかる土地は同年八月一一日付で分筆され、同月一八日付で原告から石谷寿夫に所有権移転登記がなされたことが認められる。

なるほど右認定に反して甲第一三号証(右分筆費用の領収書)は安藤寧秋個人宛に発行されたかの外観を有し、同第一五号証には右安藤から依頼されて細田の土地の造成工事をした旨の建設業者の供述記載が存するが、前記証人安藤寧秋、同敏武両名の各証言及び弁論の全趣旨によれば原告は取締役個人名義で銀行取引や不動産取引を行なつているし、小規模法人にあつては法人の実質的運営にたずさわる個人と法人とが区別されないまま領収書等が発行されることはままありうること(原告が後記矢田部の土地を売買した際名義を安藤敏武としていることは後述のとおりである。)を勘案すると、右各証拠をもつて前記認定を左右するには足りないし、甲第一七号証(笹本俊夫作成名義の念書)には、原告設立前の昭和四〇年四月に細田の土地を寧秋に売り渡した旨の記載があるが、右記載及び前記証人両名の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠及び成立に争いのない乙第三六号証の一ないし三により認められる安藤寧秋が昭和四六、四七年分の所得税の確定申告において細田の土地の譲渡収入を計上していない事実に照らしても採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。従つて、前記売買代金一、三〇三、〇〇〇円は、売主である原告に帰属するものというべきである。

(二)  受取利息計上漏れ(一) 一九七、二九五円

被告主張2(一)(2)<一>の事実のうち、被告主張の定期預金が原告に帰属することを除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いない甲第一号証の一、二、第二、三号証及び乙第一ないし第四号証、成立に争いのない乙第七号証並びに証人安藤敏武の証言によれば、原告会社が設立されたのは昭和四一年一一月一七日であるところ、安藤寧秋は昭和四〇年一二月六日三菱銀行銚子支店に無記名扱い、額面三、一五〇、〇〇〇円、期間一年の定期預金を設定したこと、右定期預金は昭和四二年九月二七日税引後の利息を加算して額面三、三〇〇、〇〇〇円の無記名扱い定期預金(口座番号六一〇七三八)に振替えられたこと、右額面三、三〇〇、〇〇〇円の定期預金はその後利息が加算されて昭和四四年九月二九日には額面三、六六四、〇七二円となり昭和四五年一一月二一日右定期預金の利息二三二、一一一円(源泉徴収税三四、八一六円、差引利息一九七、二九五円)が発生したこと(右利息収入の点については、当事者間に争いがない。)以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

一方、前記1(二)に述べたように右定期預金は昭和四五年六月二五日提出された原告の昭和四二ないし四四年度の修正申告書において、原告の簿外資産として計上されており、その経緯は証人安藤敏武の証言によれば被告から税務調査を受けた際原告の代表取締役である下河邊庄司、取締役である安藤寧秋及び安藤敏武の三名で協議のうえ原告の簿外の所得に対応する資産として計上したものであり、そのころ安藤寧秋は弟の敏武に対し、右預金は法人のものにしたものである旨述べていたことが認められる。

右認定の事実によれば、三菱銀行銚子支店の定期預金(口座番号六一〇七三八、額面三、六六四、〇七二円)は、設定の当初は安藤寧秋個人に帰属したものであつたが、遅くとも右修正申告がなされた時までに同人から原告に譲渡されたものであつて、昭和四六年度においては原告に帰属していたものと推認するのが相当である。

(三)  受取利息計上漏れ(二) 四四、〇五〇円

被告の主張2(一)(2)<二>の利息収入の事実は当事者間に争いがない。

(四)  支払手数料否認 一九、八〇〇、〇〇〇円

(1) 被告の主張2(一)(3)<一>の事実は当事者間に争いがない。

(2) 原本の存在と成立に争いない乙第一六、一七号証、第二一号証、第二三ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第三二号証及び前掲乙第三八号証の二並びに証人安藤敏武の証言(後記採用しない部分を除く。)によれば、(ア)安藤寧秋及び敏武両名の兄の亡安藤麒尾夫の妻は柳川桃太郎と縁戚関係にあること、(イ)柳川桃太郎は親戚にあたる不動産業者への転貸資金を得るため三菱銀行銚子支店へ三五、〇〇〇、〇〇〇円の融資依頼をし、同支店から昭和四五年一一月三〇日に期限を昭和四六年一月三〇日と定め、三〇、〇〇〇、〇〇〇円と五、〇〇〇、〇〇〇円の手形貸付を受け、昭和四五年一一月三〇日右金額から利息その他諸経費を控除した金額が同支店の柳川桃太郎の普通預金口座に入金されたこと、(ウ)昭和四五年一一月三〇日に右柳川の普通預金口座から四、六六〇、三三二円と三〇、〇〇〇、〇〇〇円とが払出され、後者は三菱銀行銚子支店長振出の小切手発行依頼資金に充てられたこと、(エ)右小切手は安藤敏武が受領し安藤寧秋名義で裏書したこと、一方、(オ)原告の三菱銀行銚子支店の普通預金(口座番号一二七三七〇三、安藤敏武名義)から昭和四六年一月二〇日三九、六六〇、三三二円が払出され、同日右金額と同額が柳川桃太郎名義の前記普通預金口座へ入金されていること、以上の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

ところで前掲乙第一六号証、成立に争いのない甲第一二号証、証人安藤敏武の証言により真正に成立したものと認められる甲第九、第一一号証及び証人安藤敏武の証言によれば、原告は昭和四五年一一月三〇日矢田部の土地を代金三九、三三八、〇〇〇円で買い入れたが(この点は前記のとおり当事者間に争いがない。)、原告は同年一二月八日訴外鹿島臨海工業地帯開発組合との間で、右矢田部の土地に六筆の土地八反八畝歩を加え、これを同組合に譲渡し、その代替地として右土地の面積の四一パーセントに相当する面積の土地三五六三坪を同組合から譲り受ける契約を締結したうえ、同年一二月二八日訴外京成電鉄株式会社に対し右三五六三坪の土地の譲渡請求権を代金八八、〇〇六、一〇〇円で譲渡する旨の契約を締結し、同会社から同日内金二六、〇〇〇、〇〇〇円、翌四六年一月一四日残金六二、〇〇六、一〇〇円の支払いを受けたことが認められるところ、証人安藤敏武は、右取引は全部東信工業の仲介によるものであり、原告は矢田部の土地の取得資金のうち三〇、〇〇〇、〇〇〇円を東信工業から現金で借り受けたなどと供述している。しかしながら成立に争いない乙第一四号証の二、三、第一五号証の二、第四一、四二号証、第四三号証の一、二、第四四号証の二によれば、東信工業は昭和四四年四月一日社名を東和プレハブ株式会社(昭和四四年一二月二〇日東信工業株式会社と社名変更)として組立ハウスの製造販売、土木建築工事の設計施工の請負、建設資材の製造販売等を目的として設立され、戸塚松郎が代表取締役に就任したが、その法人税、法人事業税及び住民税について申告又は課税された実績がないこと、右戸塚は東信工業の営業活動をしないで昭和四四年ころから昭和四六年九月ころにかけて不動産業を営む住友開発株式会社(代表取締役沼田敏男)の業務に従事していたこと及び京成電鉄株式会社の担当者は東信工業が取引の仲介をした事実を否定していること等の事実が認められ(右認定に反する証人沼田敏男の証言は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。)、これらの事実に照らすと供述はにわかに措信できず、他に原告は矢田部の土地の購入資金の出所について首肯するに足りる合理的説明をしていない。

これに対し冒頭認定の(ア)ないし(オ)の事実によれば、金銭の動きを合理的に説明し得るのであつて、以上の事実を総合すれば、原告が安藤敏武名義で矢田部の土地を買い入れた際の購入資金三九、三三八、〇〇〇円の内三四、六六〇、三三二円は柳川桃太郎から借り入れ、その後右金額に五、〇〇〇、〇〇〇円を加えて右柳川に返済したものと推認するのが相当である。そうすると原告が東信工業に対し仲介手数料として二四、八〇〇、〇〇〇円を支払つたとの原告の主張自体極めて疑わしく、かかる事実の存在は否定せざるを得ない。

そして、なるほど甲第一〇号証には東信工業が原告から昭和四六年一月二〇日矢田部の土地買取りについての諸経費及び謝礼金として二四、八〇〇、〇〇〇円を受領した旨の記載が存し、安藤敏武の証言中にも右記載に沿う供述が存するが、右安藤の供述は具体性に乏しくかつ変遷していて右記載を裏付けることは到底できないし、また、右各証拠は前掲各証拠に照らすと採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

(五)  未納事業税の当期認容額 一二、七二〇円

被告の主張2(一)(4)の事実は当事者間に争いがない。

(六)  たな卸認容 四六六、四〇〇円

原告が昭和四五年一月三〇日細田の土地を一、〇三六、〇〇〇円で仕入れ、その一部二二〇平方メートルを昭和四六年六月二五日一、三〇三、〇〇〇円で売却したことは前記2(一)において判示したとおりであり、右部分に係る原価算出の計算過程は当事者間に争いがない。

3  昭和四六年度の重加算税賦課決定について

(一)  被告の主張2(二)(1)について

原告が細田の土地の一部二二〇平方メートルを一、三〇三、〇〇〇円で売却したことは既に認定したとおりであり、原告が右売上げを除外してことさらに過少な法人税の申告をしていたことは前記2の(一)に認定したように右取引が原告に帰属することを十分認識し得たはずであるし、後記4の(一)に認定したように右売上代金を安藤敏武が個人的に費消している事実等に照らして明らかであり、これを左右するに足りる証拠はない。

(二)  同2(二)(2)について

三菱銀行銚子支店の定期預金(口座番号六一〇七三八)が原告に帰属するに至つた経緯及び昭和四六年度に右定期預金から二三二、一一一円(源泉徴収税額三四、八一六円)の利息が発生したことは前記二2(二)に述べたとおりであるが、右定期預金は原告が昭和四五年六月二五日提出した修正申告書に原告の資産として計上されている事実からみると、右利息の計上漏れは単なる過誤による計上漏れの可能性が否定できず、これを仮装隠ぺいということは困難であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。(但し、原本の存在及び真正に成立したことに争いのない乙第四五号証によれば、右利息計上漏れにかかる重加算税に関する部分は裁決により取消されている。)

(三)  同2(二)(3)について

原告は昭和四五年一二月二九日三菱銀行銚子支店の普通預金(口座番号一二七三七〇三)から払出した二〇、〇〇〇、〇〇〇円を常盤相互銀行銚子支店へ通知預金し、右通知預金から昭和四六年二月四日及び九日に合計四四、〇五〇円の利息が発生したこと、一方原告は右払出した二〇、〇〇〇、〇〇〇円を東信工業に対する借入金の返済に充てた旨経理していたことは当事者間に争いがなく、東信工業からの借り入れなるものが虚偽であることは前示のとおりであるから、右二〇、〇〇〇、〇〇〇円から生じた利息収入についても、原告は仮装隠ぺいしていたものというべきである。

(四)  同(2)(二)(4)について

被告の主張2(二)(4)<一>の事実は当事者間に争いがなく、前記二2(四)に認定したように原告は東信工業に二四、八〇〇、〇〇〇円を手数料等の名目で支払つたものとは認められず、真実は柳川桃太郎から矢田部の土地仕入資金として三四、六六〇、三三二円を借り入れその返済として三九、六六〇、三三二円を支払つたものであるから、原告は右仮装経理により一九、八〇〇、〇〇〇円の所得を仮装隠ぺいしたものというべきである。

(五)  同2(二)(5)について

前記二3(一)の原告が売上げを除外した細田の土地の一部二二〇平方メートルの原価相当部分であるから減算されるべきである。

4  源泉所得税納税告知処分等について

(一)  昭和四六年六月分の安藤敏武に対する賞与について

原告が細田の土地のうち二二〇平方メートルを昭和四六年六月二五日石谷寿夫に一、三〇三、〇〇〇円で売却したことは前記二2(一)で既に述べたところであるが、成立に争いない乙第三六号証の一、第三八号証の二、証人安藤寧秋及び同安藤敏武の各証言(但し、いずれも後記採用しない部分を除く。)によれば、右石谷との売買の交渉、契約の締結及び代金の受領はすべて安藤敏武が行なつていること、安藤寧秋は昭和四六年分の所得税の確定申告において右土地売却による譲渡収入を計上していないこと、安藤敏武は昭和四九年八月七日に行なわれた税務職員の質問検査の際に右売却代金を個人的に費消した旨供述していることが認められ、右認定に反する右証人安藤寧秋、同敏武両名の供述は前掲各証拠に照らして採用し難く、他にこれを左右する証拠はない。従つて、右売却代金一、三〇三、〇〇〇円は安藤敏武に対する賞与というべきである。

(二)  昭和四六年一二月分の安藤寧秋に対する給与について

三菱銀行銚子支店の定期預金(口座番号六一〇七三八)は前記二2(二)に認定したように原告に帰属する(前掲乙第一号証によれば昭和四五年一一月二一日利息を加算して三、八六一、三六七円となる。)ものであるところ、右定期預金から昭和四六年一二月三日一八四、七〇七円の利息が発生し、右利息が安藤寧秋個人の右支店普通預金口座(口座番号一〇〇〇四五九)に同日入金されていることは当事者間に争いがないので、右各事実によれば右利息は安藤寧秋に対する賞与というべきである。

(三)  昭和四七年一月分の安藤敏武に対する給与について

細田の土地が原告に帰属したこと、右土地の一部二二〇平方メートルが石谷寿夫に売却され、昭和四六年八月一一日付で分筆されたことは既に認定したとおりであるが、原本の存在と成立に争いない乙第一二号証、前掲甲第六、七号証、乙第三六号証の二、三、第三八号証の二によれば、原告は昭和四七年一月二二日右分筆後の土地二六八平方メートルを青野陽子に代金八〇〇、〇〇〇円で売却したこと、安藤寧秋は昭和四七年分の所得税の申告において右山林売却による譲渡収入を計上していないこと、安藤敏武は昭和四九年八月七日に行なわれた税務職員の質問検査の際に右売却代金を個人的に費消した旨供述していることが認められ、右認定に反する甲第一九号証の記載及び安藤寧秋の証言は前掲各証拠に照らして採用し難く、他にこれを左右する証拠はない。従つて、右売却代金は安藤敏武に対する賞与というべきである。

(四)  昭和四七年五月分の安藤敏武に対する給与について

被告の主張3(四)(1)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第五八号証の一、二、原本の存在と成立に争いのない乙第五八号証の三、四、前掲乙第一六号証、証人持丸治見の証言及び弁論の全趣旨によれば昭和四七年五月四日原告は一〇、〇〇〇、〇〇〇円の定期預金から生じた利息二四三、二八五円を原告の三菱銀行銚子支店の普通預金に入金しながら、現金出納帳上において、同日同額の現金を右普通預金に入金した旨の仮装経理をし、これに伴い現金二四三、二八五円を社外へ流出させたこと、右仮装経理は昭和四七年度決算においても訂正されていないこと、原告の昭和四六年一一月ころから昭和四八年四月ころにかけての記帳経理は安藤敏武が作成した伝票に基づいて一年間分をまとめて内山和雄税理士により行なわれたこと、原告の重要な不動産取引及び銀行取引並びに税務職員に対する経理内容の説明には主として安藤敏武があたつていることが認められ、右認定に反する甲第二二号証の記載は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、原告から昭和四七年五月四日利息相当額の現金の普通預金入金との仮装経理に伴い社外流出した現金二四三、二八五円は安藤敏武の経理上の役割を考えると他に特段の反証のない本件においては同人が個人的に費消したものと推認するのが相当というべきである。従つて、右現金は安藤敏武に対する賞与というべきである。

三  結論

以上の次第であるから本件課税処分のうち昭和四四年度の法人税更正処分につき所得金額一五、五八〇、四七一円を超える部分及び右更正処分を基礎とする重加算税賦課決定処分の各取消しを求める部分は理由があるから認容すべく、その余の部分についてはいずれも理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 田中信義)

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